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神の木偶(でく) 曽野綾子の魂の世界

目次


第一章 その生い立ち

1 磁気を発する少女

2 勇敢な敵にして親友

3 「幸福な女」という神話

4 父の家系、母の家系

5 待たれた娘

6 生きる姿勢を教えた人

7 表現技術を教えた人

8 火宅の中で

9 「死」に向かう母と

10 「聖心」での生活

11 マリア・エリザベスと曽野綾子の誕生

 

第二章 曽野文学の特質

12 人生を変えた一つの批評

13 もし思し召しなら

14 一作一作、『新思潮』の頃

15 真実を仮構の世界で

16 芥川賞候補作『遠来の客たち』の新しさ

17 認識者の眼を持った颱風

18 優れた資質ー美意識とモラル

19 観察者は生活者に転換しうるか

20 世界を眺める眼

21 初期の作品から

 

第三章 もう一つの真理

22 メランコリー(不眠症)の悩みの中で

23 マリリン・モンローの死の衝撃

24 『砂糖菓子が壊れるとき』

25 不条理の認識ー『長い暗い冬』

26 幸福の割り当て量

27 燃える赤土の道ー『無名碑』成立の発端

28 不条理の受容ー『無名碑』の背骨部分としての「ヨブ記」

29 土木工事の世界ー『無名碑』の筋肉部分

30 一つの戦いの記録ー『生贄の島』

31 曽野文学の転換期ー『無名碑』

32 新しい文学への期待

 

曽野綾子 年譜

書評


この本に出会ったきっかけは、“夫の後始末”を書いた曽野綾子さんを知ってからです。

 

曽野さんに興味が湧いて、色々調べていくうちに、鶴羽伸子さんに行きつき、また、お二人が親友だった(鶴羽さんは2002年に癌で他界)こと、長い絶縁状態があったことなど、お二人の関係にも興味が湧きました。

 

そうして、その親友の鶴羽さんが曽野さんについての本を書かれているので、どんなネットの情報よりも信憑性の高い内容が、真実が書かれているんだろうなと思い、読むに至りました。

 

 

曽野さんをネットで調べると、アンチがけっこういるんですよね。

 

曽野さんの発言に対して、暴言とか、差別だとかっていう意見がありますが、私はそういう風には思えませんでした。

 

 

 

暴言とか、差別とかっていうのは、発言の本質を理解していないとか、理想主義者の都合のよい解釈だと私は思った。

 

 

今日でも、著名人でも他人でもニュースに上がるようなことがあれば、少ない情報だけで人々は好き勝手に制裁をする。

 

 

発言するのは自由だけど、なんの目的でするんだろうなと思う。

 

当事者でもないのに、ニュースに上がることが真実でもないのに、何が分かるんだろう、と。

 

 

 

著者の鶴羽さんはまえがきでこう言っている。

 

『現存中の作家の評伝を、同時代に生きる人間が書くのは、無謀な試みであるかもしれない。

人間の評価は墓穴を掘った後でなければ定まらず、書き手は対象となる人物の全生涯を俯瞰し、作品の流れを読みとり、分析できる位置にいなければならないからである。』

 

他にも、曽野綾子さんに嫌味を言ったりする作家に対しても、そういう人は本を読んでない(曽野さんの)から、真実が見えていないということも言っている。

 

 

私もこれは全く同意。

 

 その人がどんな環境で生まれ育ち、どんなことをしてきたのかを知らない人には、その人を本当に理解することはできない。

自分が知らない人に対して、批評することは、見えない物に自分なりの評価をしているだけ。

 

 

だから、好き勝手言うのは自由なんだけど、よく知りもしない相手を批判することこそ暴力的だなぁとか、下品だなぁと思ってしまう。

 

 

それでも、曽野さんは、好き勝手言われても、発言を撤回したりしないところが、信念があるなと思う。

 

人にあーだこーだ言われてすぐ謝ってしまうのは、自分の行いにそんなに信念がないということだ。

 

曽野さんは勇敢な女性だ。

 

 

 

鶴羽さんと曽野さんは、戦争がきっかけで出会ったと言ってもいいかもしれない。

 

曽野さんは東京に住んでいたが、鶴羽さんの住む石川県に、高校生の時に疎開し、その疎開先の高校で二人は出会った。

 

 

鶴羽さんは、最初は才色兼備な曽野さんが気に入らなかったのだけど、だんだん曽野さんの魅力を認めざるを得なくなっていった。つまり好きになっていき、気も合ったようで、親友になったそうだ。

 

私も、この鶴羽さんの本を読んだことで、曽野さんの魅力にはまっている。

 

 

小学校6年生で小説を書いたこと。戦時中で皆がいつ死ぬのだろうかと考えているなか、昼休みは一人で英語の勉強をしていたとか。当時の女性がやらない、男性しかやらないことをやったりとか。どんなに忙しくても、講演などの依頼を受ける時は秘書にやらせても、断る時は自分で伝える律儀さとか。

 

 

鶴羽さんの説く曽野文学も魅力的だ。

 

私はまだ1冊しか読んだことがないけれど、鶴羽さんが言うには、曽野さんはノンフィクションとフィクションを混ぜて、読者が本当なのかな?と信じてしまいそうになるのを楽しんでいる部分があるそうだ。

 

そういう捻りの効いた遊びのある本は、村上春樹ワールドとかワールド入っちゃってる本より好きだ。

 

 

曽野さんと鶴羽さんは、ウィキペディアには20年絶縁状態だったとあるけど、その理由は分からない。

 

この本を読んでいて、仲の良さというのは感じられないのだけど、曽野さんへの尊敬、本人より解っているんじゃないかと思うくらいの理解の深さがあるし、曽野さんを理解できない人に対して、なぜ理解できないのかということも、優れた洞察力で核心を突いていたりしている。

 

曽野さんが書いた本の書評もたくさんある。旧漢字が出てくるくらい時代の古さを感じるのだけど、表現がシンプルで解かりやすいので、非常に読みやすい。書評を見ていて、この本も読んでみたい、こっちのもいい!という興味を掻き立てられてしまう。

 

曽野さんについて知りたい方は、曽野さんの作品を読むと同時にこちらの鶴羽さんの本を読むことをおすすめします。

 

友人から見た曽野綾子さんを知ることができます。

 

新書も、図書館でも見つからなかったので、私はAmazonで中古本を購入しました。まだ数冊販売されているので、リンク下に貼っておきます。

おすすめしたい人


  • 曽野綾子さんについて知りたい人

 

著者プロフィール・鶴羽伸子さん


本姓斎藤。

1932年金沢市に生まれる。金沢大学法文学部独文学科卒業。1957年から67年まで金沢アメリカ文化センター図書主任。主な著訳書。『悪妻悪夫を手なずける法』(双葉社)『とがりねずみの谷』(講談社、共訳)『中国農村からの報告』(中央公論社、共訳)『未亡人』(文藝春秋社、共訳)『スポック博士の家庭教育』(紀伊國屋書店、共訳)『旅路』(双葉社、共訳)